狐のまつり 前篇「初めの日」

 

一弥(いちや)は、足に怪我をした小さな狐を見つけました。

一弥は狐を古い祠に隠し、

毎日の奉公が終わってから世話をしに行っていました。

 

狐の怪我もすっかり治ったある日のこと。

一弥が狐に飯をやり、体を撫でてやると、狐はひとのことばを語りました。

 

「油揚げを頂戴。そしたら御前の知りたいことを教えてあげよう」

 

一弥はびっくりしましたが、

少し考えてから油揚げを持ってきて、

病気の母親を治す方法を尋ねました。

 

 

「三里先の神社の一本杉の影にある榊を一振り」

「そこの井戸から汲んだ水に浸けて三日」

「おかかさまに、飲ませる」

 

狐は、油揚げを美味しそうに食べてしまうと、

一弥にそう言いました。

 

そんなことで病気が治るのかと一弥は思いましたが、

狐の瞳の奥のほうの、

精神がゆらゆらと炎のように揺らめきながら生きているのを感じると、

不思議と素直に信じたのです。

 

 

三日後、母親の病気がすっかり良くなると、

一弥は油揚げを片手に、狐のところに駆けてゆきました。

 

最初はちんまりと両腕におさまるくらいだった狐も、

一弥の成長とともに大きく美しい狐になってゆきました。

 

 

 

一弥が大きくなるにつれ、一弥の願いも、

それに対する狐の要求するものも、より大きなものになっていきました。

 

 

富のためには美しい絹を。

 

出世のためには父の形見を。

 

美しい女を手に入れるためには祖母の遺骨を。

 

 

 

幾百の願いを狐に叶えてもらった一弥は、いつしか四十を超え、

人には許されざる願いを持つようになりました。

 

 

 

「不死の体が欲しい」

 

 

 

一弥の願いを聞いた狐は、

しばらく押し黙ってから、答えました。

 

 

 

 

一弥の願いを叶えるには。

「御前の最も大切な者の首を」

 

一弥は悩みながら帰り、そしてその晩、

自分の妻と子を、手にかけたのでした。

 

 

 

首を狐のところに持っていくと、

「さぁ狐よ、持ってきたよ、叶えてくれ」

 

狐は立ち上がると、

悲しそうな声で、霧のかかった月に向かって啼きました。

 

狐の体は燃える炎のようになり、

轟く嵐のような声で言いました。

 

「一弥、違う。自分の願いのために妻や子を殺める御前が、

本当に大切にしているものは、」

 

「御前にとって最も大切だと思っている者は、御前自身だ」

 

 

 

その瞬間、狐は一弥の喉を食いちぎり、

首を残してその体を食い尽くしてしまいました。

 

「願いを叶えるために、一弥にとって最も大切な者の首を持ってくる」

という約束を、狐は守らせたのです。

 

 

 

一弥を食い尽くした狐は、人食いによって人に化ける力を得、

自分を可愛がってくれた一弥を食い殺した獣の姿でいることを悲しみ、

殺生のできないような、女の姿に化けました。

 

 

それからというもの、一弥が狐の世話をしたその祠のある土地は「首塚」と呼ばれるようになり、

狐はその祠に祀られ、人々に畏れられるようになったのです。

 

「なんでも、あの祠の狐のおまつりさんは、どんな望みでも叶えてくれるらしい。

 だがそのせいで、強欲な男がひとり亡くなったんだと」

 

 

ーーーーこれが、狐のまつりの、初めの日。

 

 

 

後篇「空狐の消えた日」へ

 

 

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